はじめに:openpyxlで保存したExcelファイルが重いと感じたことは?
Pythonのopenpyxlライブラリを使って、大量の数式を含むExcelファイルを生成・更新した際、「ファイルを開くたびに再計算が走って動作が遅い…」と感じた経験はありませんか?
その原因は、Excelの「計算方法」の設定にあるかもしれません。openpyxlでは、この計算に関する詳細な設定をCalcPropertiesという機能を使ってPythonコード上から直接コントロールできます。
この記事を読めば、あなたもCalcPropertiesを理解し、Excelファイルのパフォーマンス改善や、より意図した通りの動作をユーザーに提供できるようになります。
openpyxl.workbook.properties.CalcProperties とは?
CalcPropertiesは、Excelワークブックの計算に関するプロパティ(特性)を管理するためのクラスです。
結論:Excelの「計算方法」を設定する心臓部
一言でいうと、CalcPropertiesはExcelの「ファイル」タブ → 「オプション」 → 「数式」の中にある**「計算方法の設定」**に直接アクセスするための機能です。
普段Excelを手で操作するときに設定する「自動」や「手動」といった計算タイミングを、openpyxlで保存するファイルにあらかじめ埋め込むことができます。これは、workbookオブジェクトのcalculation属性としてアクセスできます。
なぜCalcPropertiesが重要なのか?
openpyxlはデフォルトで、数式の結果そのものは書き込みません。セルに=SUM(A1:A10)と書き込むだけで、その計算結果(値)は保存しません。値はExcelアプリケーションがファイルを開いたときに計算します。
そのため、数百万の数式を含む巨大なファイルを作成した場合、ファイルを開くたびにExcelが全数式を再計算しようとし、ユーザーを長時間待たせてしまう可能性があります。CalcPropertiesを使って計算モードを「手動」に設定しておくことで、このような事態を避け、ユーザーが好きなタイミングで再計算できるようになります。
CalcPropertiesの主要な属性と効果
CalcPropertiesにはいくつかの設定項目がありますが、特に重要なものを紹介します。
calcMode: 計算のタイミングを操る(auto / manual)
これが最も重要な属性です。計算モードを指定します。
auto(デフォルト): 自動。数式が参照するセルの値が変更されると、関連する数式が自動的に再計算されます。一般的なExcelの動作です。manual: 手動。値が変更されても数式は自動で再計算されません。ユーザーがF9キーを押すか、手動で再計算を指示するまで更新されません。autoNoTable: データテーブル以外の数式を自動で再計算します。
大量のデータを書き込んだ後に保存するファイルでは、manualに設定することでパフォーマンスが大きく向上します。
fullCalcOnLoad: ファイルを開いたときの再計算を制御
TrueまたはFalseで設定します。
True: ファイルを開いたときに、すべての数式を強制的に再計算します。False: ファイルを開いたときに強制的な再計算を行いません。calcModeがmanualの場合でも、他の要因で再計算が走るのを抑制したいときに有効です。
calcMode = 'manual'とfullCalcOnLoad = Falseを組み合わせることで、ファイル開封時の待ち時間を最小限に抑えることができます。
その他の重要な属性(iterate, iterateCount, iterateDelta)
これらは循環参照(例:A1セルがB1を参照し、B1セルがA1を参照する状態)を扱うための反復計算設定です。
iterate:Trueにすると反復計算を有効にします。iterateCount: 最大反復回数を設定します。iterateDelta: 反復計算を終了する変化量の閾値(しきいち)を設定します。
通常はあまり使いませんが、特定の金融モデルや科学技術計算を扱う際に必要となる設定です。
PythonコードでExcelの計算方法を変更する実践例
それでは、実際にPythonコードを使ってExcelの計算方法を手動に設定してみましょう。
準備:数式を含むExcelファイルを作成
まず、openpyxlで簡単な数式が入ったExcelファイルを作成し、sample.xlsxとして保存します。
from openpyxl import Workbook
# 新しいワークブックを作成
wb = Workbook()
ws = wb.active
ws.title = "CalcDemo"
# データを入力
ws['A1'] = 100
ws['A2'] = 200
# 合計を計算する数式を入力
ws['A3'] = '=SUM(A1:A2)'
# この時点では計算方法は「自動」で保存される
wb.save("sample.xlsx")
print("sample.xlsx を作成しました。")実践:計算モードを「手動」にして保存する
次に、今作成したsample.xlsxを読み込み、計算プロパティを変更して別名で保存します。
from openpyxl import load_workbook
from openpyxl.workbook.properties import CalcProperties
# 作成したファイルを読み込む
wb = load_workbook("sample.xlsx")
# CalcPropertiesオブジェクトを取得(なければ新規作成)
# wb.calculation は CalcProperties のインスタンスです
if wb.calculation is None:
wb.calculation = CalcProperties()
# ★★★ ここがポイント! ★★★
# 計算モードを手動に設定
wb.calculation.calcMode = "manual"
# ファイルを開いたときのフル再計算を無効に設定
wb.calculation.fullCalcOnLoad = False
# 設定を変更したファイルを別名で保存
wb.save("sample_manual.xlsx")
print("計算モードを手動にした sample_manual.xlsx を作成しました。")sample_manual.xlsxを開いてみてください。「ファイル」→「オプション」→「数式」を確認すると、計算方法が「手動」に設定されているはずです。A1セルの値を変更しても、A3セルの合計値が自動で更新されないことを確認できます。
CalcPropertiesを使いこなすためのヒント
大量データ入力時のパフォーマンスを改善する
数万行に及ぶデータをループ処理でセルに書き込み、各行に数式を設定するようなバッチ処理では、calcMode = 'manual'が絶大な効果を発揮します。処理の最後に計算モードを手動に設定して保存することで、ユーザーがファイルを開く際のストレスを大幅に軽減できます。
循環参照を扱う場合の設定
意図的に循環参照を用いたモデルをopenpyxlで構築する場合は、iterate関連の属性を忘れずに設定しましょう。
# 反復計算を有効にする例
wb.calculation.iterate = True
wb.calculation.iterateCount = 100
wb.calculation.iterateDelta = 0.001まとめ:CalcPropertiesを理解して、より高度なExcel操作を
今回は、openpyxlの少しマニアックながらも非常に強力な機能、CalcPropertiesについて解説しました。
CalcPropertiesはExcelの計算方法(自動/手動など)をコードで制御する機能。workbookオブジェクトの**calculation属性**からアクセスする。calcMode = 'manual'とfullCalcOnLoad = Falseは、巨大な数式ファイルを作成する際のパフォーマンスチューニングに不可欠。- 循環参照のような特殊なケースにも対応可能。
openpyxlでのセル操作に慣れてきたら、次はこのCalcPropertiesのようなワークブック全体の挙動を制御する機能にも目を向けてみましょう。これにより、あなたの作成するExcelファイルはさらにプロフェッショナルなものになるはずです。


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